『債務整理をすると貯金は全部なくなるのか』『20万円までなら残せるのか』『99万円という数字は何を意味するのか』――このあたりは、債務整理を調べると特に混乱しやすい部分です。
結論からいうと、任意整理・個人再生・自己破産では、貯金の扱いがまったく違います。さらに、『20万円』と『99万円』は同じ意味の基準ではありません。
- 任意整理:裁判所を使わない私的な交渉なので、手続そのものによって貯金を処分する仕組みではありません。
- 個人再生:財産を原則として持ったまま進められますが、預貯金などの財産価値が清算価値に反映され、最低返済額が上がることがあります。
- 自己破産:一定の財産は換価・配当の対象になり得ます。ただし、99万円以下の現金などの自由財産は手元に残せる仕組みがあります。
- 20万円:全国一律で『20万円までなら必ず残せる』という法律上の線ではありません。裁判所の運用上、管財事件になるか、換価対象資産として扱うかなどを判断する目安として使われることがあります。
- 99万円:自己破産における『現金』の自由財産に関する数字であり、『銀行預金99万円まで必ず残せる』という意味ではありません。
この記事では、2026年9月時点の裁判所・法テラスの公表情報を基に、『結局いくら残せるのか』を手続別に整理します。制度上の扱いは裁判所ごとの運用や個別事情でも変わるため、最終判断は申立先の裁判所や専門家へ確認してください。
- 最初に結論|『債務整理すると貯金はいくら残せる?』は手続によって答えが違う
- 『99万円まで残せる』の正しい意味|自己破産の現金に関する自由財産
- では『20万円基準』とは何なのか
- 任意整理なら貯金は基本的に処分されない
- 私が任意整理を2回したとき、貯金を没収されるような手続ではなかった
- 個人再生では貯金を持ったまま進められるが、返済額に影響することがある
- 自己破産では『現金』『預貯金』『その他の財産』を分けて考える
- 東京と札幌で現金の管財基準例が違う|『20万円ルール』を全国共通にしてはいけない
- 『貯金を減らしてから自己破産すればいい』は危険
- 給与が入った直後の預金はどうなる?
- ボーナス・退職金が近い場合はどう考える?
- NISA・株・投資信託・暗号資産は『貯金ではないから対象外』ではない
- 生命保険の解約返戻金も見落としやすい
- 車がある場合|預金だけで『20万円以下だから同時廃止』と判断できない
- 自宅がある場合|貯金額より不動産の扱いの方が重要になることもある
- 家族の貯金も自分の財産になる?
- 子どもの学資保険や子ども名義の貯金は?
- 会社経営者・個人事業主はさらに注意が必要
- 手続別|貯金50万円・100万円・200万円ならどう考える?
- 債務整理前に貯金をどう使うべきか
- 通帳はどこまで見られる?
- よくある誤解1|債務整理すると20万円を超える貯金は全部没収される
- よくある誤解2|自己破産なら99万円まで預金口座に置いておける
- よくある誤解3|貯金を家族へ移せば処分されない
- よくある誤解4|個人再生なら財産はいくらあっても返済額は同じ
- よくある誤解5|貯金が少なければ必ず同時廃止になる
- 『貯金を残したい人』が手続を選ぶときの判断順序
- 相談するときに準備しておくとよい資料
- FAQ|債務整理と貯金の20万円・99万円
- 同時廃止と管財事件の違いを理解すると、20万円基準の意味が見えやすい
- 20万円は財産全部の合計なのか、財産ごとなのか
- 自己破産で99万円の現金があれば必ず同時廃止になるわけではない
- 自由財産拡張は何のためにある?
- 個人再生の清算価値を具体例で考える
- 任意整理で貯金を残せても、銀行との取引には注意する
- 特定調停では貯金はどう扱われる?
- 申立て直前に大きな買い物をするとどうなる?
- 相談前に作る『財産一覧』テンプレート
- 20万円・99万円で迷ったときの最終チェック
- 公式情報を確認するときのポイント
- まとめ|『20万円・99万円』だけで手続を決めない
最初に結論|『債務整理すると貯金はいくら残せる?』は手続によって答えが違う
『債務整理』という言葉は、任意整理・個人再生・自己破産・特定調停など複数の手続をまとめた呼び方です。そのため、『債務整理すると貯金はいくら残せる?』という質問に一つの金額だけで答えることはできません。
| 手続 | 貯金の基本的な扱い | 20万円・99万円との関係 |
|---|---|---|
| 任意整理 | 原則として手続による財産処分はない | 20万円・99万円の破産実務上の基準は直接関係しない |
| 特定調停 | 返済条件を調整する手続で、通常は財産を換価する手続ではない | 破産の20万円・99万円基準とは別 |
| 個人再生 | 財産を保有し続けられるが、財産価値が最低返済額に影響することがある | 99万円まで自由という単純なルールではない |
| 自己破産 | 自由財産などを除き、一定の財産が換価対象になり得る | 99万円以下の現金は自由財産。20万円は裁判所運用上の目安として出てくることがある |
この違いを無視して、『債務整理なら貯金20万円までは大丈夫』『99万円までなら絶対残せる』と覚えてしまうのが一番危険です。
『99万円まで残せる』の正しい意味|自己破産の現金に関する自由財産
法テラスは、自己破産について、破産財団に属する現金のうち99万円までは破産者が自由に処分できる自由財産と説明しています。
ここで重要なのは『現金』という点です。銀行口座に入っている預貯金と、手元の現金は、破産実務上まったく同じ扱いとは限りません。
『預金も現金もお金なのだから、合わせて99万円まで大丈夫』と自分で判断するのは避けてください。裁判所へ提出する財産目録でも、現金と預貯金は別項目として扱われるのが通常です。
99万円は『借金があっても自由に隠してよいお金』ではない
自由財産とは、破産手続が始まった後も破産者が自由に管理・処分できる財産です。しかし、だからといって申立て直前に預金を引き出して現金化し、形式的に99万円以内へ収めればよいという意味ではありません。
自己破産では、財産の内容・預金履歴・大きな出入金などを裁判所へ説明する必要があります。法テラスも、財産を隠したり、裁判所へ一部の財産を申告しなかったり、虚偽書類を提出したりすることは、免責判断に影響し得る行為として案内しています。
『残せるように見せるためにお金を動かす』のではなく、ありのままの財産状況を申告したうえで、何が自由財産になるかを判断してもらうのが基本です。
自由財産の拡張が認められる場合もある
自己破産では、法律上当然に自由財産となるものだけでなく、生活状況、財産の種類・額、今後の収入見込みなどを考慮して、裁判所が自由財産の範囲を広げる『自由財産拡張』が問題になる場合があります。
ただし、これは『申請すれば必ず認められる制度』ではありません。病気、仕事、生活再建に必要な財産など、具体的事情をもとに裁判所が判断します。
では『20万円基準』とは何なのか
ネット上では、『自己破産では20万円を超える財産は処分される』『貯金20万円までは残せる』という説明をよく見かけます。
しかし、20万円は全国一律で『20万円までなら必ず残せる』と定めた単純な法律上の基準ではありません。
例えば東京地方裁判所は、原則として管財事件として扱う例として、33万円以上の現金がある場合や、預貯金・保険の解約返戻金・未払報酬など20万円以上の換価対象資産がある場合を挙げています。
一方、札幌地方裁判所の案内では、管財事件として扱う例として、50万円以上の現金、または20万円以上の換価対象資産がある場合などを挙げています。
つまり、現金についての運用例だけを見ても東京と札幌で数字が同じではありません。これだけでも『全国どこでも20万円ルール』という理解が危険だと分かります。
20万円は『残せる金額』ではなく『手続や換価を考える目安』として登場する
20万円という数字は、裁判所の破産実務で、一定の財産について管財事件として調査・換価を行う必要があるかを考える場面などで登場します。
そのため、例えば預金が21万円なら必ず21万円全部を失い、19万円なら何の問題もない、という機械的な話ではありません。
財産の種類、複数口座の合計、保険、自動車、退職金見込額、不動産、申立先裁判所の運用、自由財産拡張の可否などを含めて判断されます。
任意整理なら貯金は基本的に処分されない
任意整理は、裁判所などの公的機関を利用せず、債権者と支払額・支払方法を話し合って合意する手続です。法テラスも、任意整理を裁判所を利用しない私的な話合いによる債務整理と説明しています。
自己破産のように、破産管財人が財産を換価して債権者へ配当する仕組みではありません。そのため、『任意整理をしたから貯金を20万円まで減らさなければならない』というルールはありません。
任意整理で100万円の貯金があったら全部取られる?
任意整理という手続そのものによって、100万円の預金を強制的に処分する制度ではありません。
ただし、貯金が十分ある一方で返済条件だけを大きく軽くしたいという場合、交渉の内容や返済可能性の判断に財産状況が関係することはあります。また、どの債権を任意整理の対象にするか、銀行借入れがあるかなどによっては、別途口座凍結や相殺の問題も出てきます。
銀行口座への影響は債務整理で口座凍結は起きる?で別に詳しく解説しています。
任意整理では『残せる貯金額』より『無理なく返済できるか』が重要
任意整理は、合意後も返済を続ける手続です。法テラスも、支払をしていくための原資確保や家計管理が必要だと案内しています。
そのため、手元資金をすべて返済に回して生活防衛資金をゼロにすると、急な医療費、家電故障、車の修理、税金などで再び借入れが必要になる可能性があります。
逆に、貯金を一切使わず返済額だけ極端に小さくしたいという考え方も現実的ではない場合があります。
任意整理では、『いくら残せるか』だけでなく、毎月の返済額、生活費、予備費を合わせた家計全体で考えることが重要です。
私が任意整理を2回したとき、貯金を没収されるような手続ではなかった
私は任意整理を2回経験しています。1回目は26歳ごろで、当時の年収は約400万円でした。インターネットで任意整理を知り、地元の司法書士事務所へメールで連絡し、電話、その後に対面相談へ進みました。
私の場合、任意整理をしたことで裁判所や管財人から『貯金をこの金額まで減らしてください』と言われるような手続ではありませんでした。これは任意整理が裁判所で財産を清算する手続ではないためです。
1回目は仕事で車が必要だったため、車を維持できるかが大きな不安でしたが、結果として車を手放さずに進め、約3年で完済しました。
約10年後に2回目の任意整理を経験したときは、1回目とは別の司法書士事務所へ相談しました。2回目はすべてのカードを対象として提出し、カードはすべて停止しました。
ここで大事なのは、私の経験は任意整理の体験であり、自己破産の『20万円』『99万円』の財産ルールを経験した話ではないということです。自分の体験と制度上の一般論は分けて考える必要があります。
個人再生では貯金を持ったまま進められるが、返済額に影響することがある
個人再生は、自己破産と違い、原則として自宅や自動車などの財産を保有したまま再建を目指せる手続です。
ただし、『財産を取られないのだから、貯金はいくらあっても返済額に関係しない』という意味ではありません。
裁判所の案内では、個人再生の再生計画で返済する総額は、債務者が自分の財産を処分して返済に充てる場合の額(清算価値)を上回らなければならないとされています。
清算価値とは何か
簡単にいうと、『仮に今ある財産を清算したら、債権者へどれくらい配当できるか』という財産価値です。
預貯金、保険の解約返戻金、自動車、不動産、退職金見込額など、対象となる財産を評価して清算価値を計算します。
例えば借金額から計算した最低弁済額が100万円でも、清算価値が180万円あるなら、少なくとも清算価値を上回る返済が必要になる、という方向で考えます。実際の計算は財産の種類や評価方法、手続の種類によって変わるため、単純計算だけで決めないでください。
個人再生で貯金100万円があれば100万円没収される?
個人再生は財産を換価して没収することが中心の手続ではありません。預金100万円をその場で取り上げられる、という仕組みではありません。
ただし、その100万円が清算価値へ反映されることで、再生計画上の最低返済額が上がる可能性があります。
したがって、個人再生では『貯金を残せるか』と『最終的にいくら返済する必要があるか』をセットで考える必要があります。
個人再生全体の仕組みは個人再生とは?完全ガイドで整理しています。
自己破産では『現金』『預貯金』『その他の財産』を分けて考える
自己破産は、裁判所が破産手続開始を決定し、必要に応じて破産管財人が財産を換価して債権者へ配当する手続です。
そのため、任意整理・個人再生より財産の扱いが重要になります。
ここで最低限分けて考えたいのが次の3つです。
- 手元にある現金
- 銀行・信用金庫・ネット銀行などの預貯金
- 保険、自動車、不動産、退職金見込額、有価証券などその他の財産
『全部まとめて99万円まで』という理解ではありません。
現金|99万円以下は自由財産
法テラスは、破産財団に属する現金のうち99万円までは破産者が自由に処分できると案内しています。
これは自己破産後の生活再建のために重要な仕組みです。破産した瞬間に財布の中までゼロにされるわけではありません。
預貯金|『99万円以下なら全部自由』とは限らない
銀行口座に入った預貯金は、手元の現金と同じ99万円自由財産ルールで一律処理されるとは限りません。
例えば東京地裁は、預貯金などの換価対象資産が20万円以上ある場合を、原則として管財事件として扱う例に挙げています。札幌地裁も20万円以上の換価対象資産がある場合を管財事件の例として挙げています。
ただし、これも『20万円を1円超えた瞬間に全部没収』という意味ではありません。あくまで申立先裁判所の運用、自由財産拡張、他の財産の有無、調査の必要性などを含めて判断されます。
保険・車・退職金見込額なども合わせて考える必要がある
『銀行残高は15万円だから大丈夫』と思っていても、解約返戻金のある生命保険、価値のある車、退職金見込額、株式・投資信託などがあれば、それらも財産調査の対象になります。
自己破産では、預金額だけ見て安全かどうかを判断しないことが重要です。
どの手続なら貯金を残せるか、まず比較して整理する
『貯金を残したい』だけで手続を決めると、返済額や住宅・車への影響を見落とします。任意整理・個人再生・自己破産の違いを先に確認してください。
手続ごとの特徴を比較してから、自分の条件に近い記事へ進めます。
東京と札幌で現金の管財基準例が違う|『20万円ルール』を全国共通にしてはいけない
20万円基準を理解するうえで、裁判所ごとの公表例を比較すると分かりやすいです。
| 裁判所 | 管財事件として扱う例 |
|---|---|
| 東京地方裁判所 | 33万円以上の現金、または20万円以上の換価対象資産など |
| 札幌地方裁判所 | 50万円以上の現金、または20万円以上の換価対象資産など |
この比較だけでも、現金に関する目安が異なります。
さらに別の裁判所では、現金と預貯金の合計、財産の総額など別の運用基準を設けている例もあります。したがって、ブログやSNSで見た『20万円』『33万円』『50万円』の数字を、自分の地域へそのまま当てはめるのは危険です。
申立先となる地方裁判所の最新案内を確認することが必要です。
『貯金を減らしてから自己破産すればいい』は危険
財産基準を見ると、『では申立て前に貯金を使って20万円以下にすればいいのでは』と考える人もいるかもしれません。
生活費、家賃、税金、医療費など通常必要な支出に使うことと、財産を隠したり、不自然に移動したり、一部の債権者だけへ偏って返済したりすることは同じではありません。
法テラスは、財産隠し、不当に安い価格での処分、一定の債権者だけへの偏った弁済、財産の不申告・虚偽書類などを免責判断に関係し得る行為として案内しています。
家族名義へ移せばいい、も危険
『自分名義の預金を家族口座へ移せば自分の財産ではなくなる』という考え方も避けてください。
名義だけでなく、お金の実質的な所有者、移動時期、理由などが確認される可能性があります。申立前に大きな資金移動をした場合は、説明できる資料を残しておくことが重要です。
現金で持てば99万円まで大丈夫、も自己判断しない
預金をまとめて引き出し現金化した直後に破産申立てをすれば、通帳履歴に大きな出金が残ります。裁判所や専門家から使途を確認される可能性があります。
自由財産制度は生活再建のための制度であって、財産を形式的に付け替えるための抜け道ではありません。
給与が入った直後の預金はどうなる?
給与そのものには民事執行上の差押禁止範囲がありますが、銀行口座へ振り込まれた後は預金債権として扱われます。破産手続では申立時・開始時の財産状況を正確に整理する必要があります。
『給料だから全部自由財産になる』『給与振込口座なら破産でも見なくてよい』とは考えない方が安全です。
生活費として直近に必要なお金がある場合は、申立てのタイミングや自由財産拡張も含め、依頼している専門家へ事前に相談してください。
ボーナス・退職金が近い場合はどう考える?
自己破産・個人再生では、退職金請求権の評価が財産額に関係することがあります。また、申立前後にボーナスなど大きな入金予定がある場合も、家計・財産状況として説明が必要になることがあります。
『まだ受け取っていないから無関係』と自己判断せず、いつ、どの程度の金額を受け取る予定かを専門家へ伝えてください。
NISA・株・投資信託・暗号資産は『貯金ではないから対象外』ではない
最近は普通預金だけでなく、NISA口座の投資信託、上場株式、暗号資産などを保有している人も多くいます。
これらは普通預金ではありませんが、財産価値を持つ資産です。自己破産では換価対象となり得ますし、個人再生では清算価値に影響する可能性があります。
『現金と預金だけ申告すればいい』と考えず、保有している資産を一覧化してください。
生命保険の解約返戻金も見落としやすい
生命保険・養老保険などに解約返戻金がある場合、その返戻金相当額が財産価値として扱われることがあります。
毎月の保険料が少額でも、長年加入していると解約返戻金が大きくなっていることがあります。
自己破産で保険を必ず解約するとは限りません。自由財産拡張、契約内容、返戻金額などによって扱いが変わるため、保険証券や解約返戻金証明書を用意して確認します。
車がある場合|預金だけで『20万円以下だから同時廃止』と判断できない
例えば預金が10万円しかなくても、価値のある自動車を所有していれば財産として評価されます。
ローン残高、所有権留保、車の時価、生活・仕事上の必要性などによって扱いが変わります。
自己破産で車を残せる条件は自己破産で車は残せる?で詳しく整理しています。
自宅がある場合|貯金額より不動産の扱いの方が重要になることもある
自己破産で持ち家がある場合、不動産の価値や住宅ローン残高が大きな判断材料になります。
個人再生では、条件を満たせば住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用して住宅を維持できる可能性がありますが、不動産の清算価値が最低返済額に影響する場合があります。
家を残したい場合は、単に『貯金が20万円以下か』だけを見るのではなく、不動産評価、住宅ローン残高、担保設定、返済継続能力をまとめて確認する必要があります。
住宅ローン特則については個人再生の住宅ローン特則とは?で詳しく解説しています。
家族の貯金も自分の財産になる?
家族名義の預金が当然に本人の財産になるわけではありません。しかし、本人のお金を家族名義口座で管理している、申立直前に本人から家族へ大きな送金をした、実質的には本人の資産なのに名義だけ家族になっている、といった場合は説明が必要になることがあります。
反対に、配偶者や子どもが自分の収入・贈与などから形成した固有の財産まで、本人の自己破産だからという理由だけで当然に処分されるわけではありません。
大切なのは、誰の財産かを通帳履歴や収入源などで説明できる状態にしておくことです。
子どもの学資保険や子ども名義の貯金は?
名義だけで結論を出すことはできません。契約者、保険料を実際に負担した人、通帳へ入金した人、資金の出所などによって判断材料が変わります。
『子どものためのお金だから絶対対象外』『子ども名義だから全部本人の財産ではない』と決めつけず、専門家へ資料を見せて確認する方が安全です。
会社経営者・個人事業主はさらに注意が必要
個人事業主や法人代表者の場合、事業用口座、売掛金、在庫、設備、貸付金、法人との金銭のやり取りなどがあるため、会社員より財産関係が複雑になりやすいです。
札幌地裁の案内でも、法人の代表者や個人事業者であることは管財事件として扱う例に含まれています。
『個人口座の残高が20万円以下』という一点だけで同時廃止になるとは考えない方がよいでしょう。
手続別|貯金50万円・100万円・200万円ならどう考える?
以下は制度を理解するための考え方の例です。実際の結果を保証するものではありません。
ケース1|貯金50万円・任意整理
任意整理には自己破産のような財産換価制度がないため、『50万円あるから20万円まで没収』という扱いにはなりません。
ただし、月々の返済可能額や家計全体を確認し、無理のない和解条件を作る必要があります。
ケース2|貯金100万円・個人再生
100万円を直接取り上げられる制度ではありませんが、預貯金を含む財産価値が清算価値へ反映されます。ほかの財産も含めた清算価値が高ければ、最低返済額が上がる可能性があります。
ケース3|預金25万円・自己破産
『25万円だから5万円だけ取られて20万円残る』と単純には決まりません。申立先裁判所の運用、ほかの財産、自由財産拡張、財産調査の必要性などを見ます。
ケース4|手元現金80万円・自己破産
法テラスが案内する99万円以下の現金という自由財産の範囲内ですが、財産状況は正確に申告する必要があります。また、申立先裁判所の管財事件の振分け基準とは別問題です。
ケース5|現金50万円+預金50万円・自己破産
『合計100万円だから99万円を1万円超えた』とだけ計算するのも、『現金50万円は全部自由だから預金もそのまま』と考えるのも適切ではありません。現金と預貯金を区別して財産目録に載せ、裁判所の運用に沿って判断します。
債務整理前に貯金をどう使うべきか
『全部返済に回すべきか』『生活費として残すべきか』は、手続によって変わります。
自己判断で大きなお金を動かすより、次の順番で考える方が安全です。
- 借入先と残高を一覧化する
- 現金・預金・保険・車・不動産・投資資産を一覧化する
- 家賃、食費、医療費、税金など直近の生活費を確認する
- 銀行借入れと預金口座が同じ金融機関か確認する
- 専門家へ相談し、手続の候補を決める
- 必要な支出以外の大きな資金移動は、事前に相談してから行う
特に自己破産や個人再生の可能性があるときは、先に財産を動かしてから相談するより、現状のまま資料を揃えて相談する方が説明しやすくなります。
通帳はどこまで見られる?
自己破産や個人再生では、申立てにあたり預貯金口座の資料提出が求められます。必要期間や提出方法は裁判所ごとに確認が必要です。
裁判所の財産目録には、残高がゼロの口座や過去に解約した口座を含め、一定期間の取引履歴の提出を求める書式例もあります。
そのため、申立直前に口座を解約したり、別口座へ移したりしても『見えなくなる』とは考えない方がよいです。
よくある誤解1|債務整理すると20万円を超える貯金は全部没収される
誤解です。
任意整理ではそのようなルールはありません。個人再生は清算価値へ影響する可能性があります。自己破産でも20万円は全国一律の『残せる上限』ではありません。
よくある誤解2|自己破産なら99万円まで預金口座に置いておける
これも危険な理解です。
99万円という数字は、法テラスが説明しているとおり、破産財団に属する『現金』の自由財産に関するものです。預貯金をそのまま99万円まで自由財産と決めつけないでください。
よくある誤解3|貯金を家族へ移せば処分されない
資金移動の経緯や実質的所有者が問題になります。財産隠しと疑われるような行為は避け、正確に申告してください。
よくある誤解4|個人再生なら財産はいくらあっても返済額は同じ
個人再生には清算価値の考え方があります。財産が多ければ、その価値が最低返済額を押し上げる場合があります。
よくある誤解5|貯金が少なければ必ず同時廃止になる
同時廃止か管財事件かは、現金・預貯金だけでなく、その他財産、免責調査の必要性、事業歴、法人代表者かどうかなども含めて判断されます。
札幌地裁も、資産調査が必要な場合、法人代表者・個人事業者の場合、免責調査が相当な場合などを管財事件の例として挙げています。
『貯金を残したい人』が手続を選ぶときの判断順序
貯金を守ることは重要ですが、そこだけで債務整理の方法を選ぶと失敗しやすくなります。
1. 毎月いくらなら返済できるか
まず、家賃・食費・光熱費・税金・保険・子育て費用などを払った後、本当に返済へ回せる金額を出します。
2. 借金総額と完済までの期間
月3万円返せるとして、借金300万円なら元本だけでも100か月です。利息や今後の生活変化を含め、現実的か考えます。
3. 残したい財産を整理する
貯金だけでなく、家、車、保険、事業資産など、生活再建に必要な財産を一覧化します。
4. 任意整理で返し切れるか
返済を続けられるなら任意整理が候補になります。返済原資が足りないなら、貯金を残すことだけを優先して任意整理を選んでも途中で破綻する可能性があります。
5. 個人再生なら清算価値を確認する
財産を保有したまま進められる可能性がありますが、清算価値がいくらになるかを確認します。
6. 自己破産なら申立先裁判所の運用を確認する
20万円、33万円、50万円といったネット情報だけで判断せず、最新の裁判所案内を確認します。
相談するときに準備しておくとよい資料
- すべての銀行・信用金庫・ネット銀行の通帳や取引履歴
- 手元現金のおおよその金額
- 生命保険・学資保険などの保険証券、解約返戻金資料
- 自動車の車検証、ローン残高、査定資料
- 不動産の登記事項証明、固定資産評価、住宅ローン残高
- 株式・投資信託・NISA・暗号資産などの残高
- 退職金見込額が分かる資料
- 借入先と残高の一覧
- 直近の給与明細や収入資料
- 家計表
全部揃っていなくても相談自体はできます。不足している資料を確認するためにも、返済が限界なら準備完了まで相談を先延ばしにしない方がよいでしょう。
FAQ|債務整理と貯金の20万円・99万円
Q. 任意整理なら貯金100万円をそのまま残せますか?
任意整理には自己破産のような財産換価制度はありません。ただし、返済可能額や交渉方針、銀行口座への影響など個別事情があります。『100万円なら必ず問題ない』と一律には言えません。
Q. 自己破産では貯金20万円までなら絶対に残せますか?
いいえ。20万円は全国一律の『残せる上限』ではありません。財産の種類、申立先裁判所の運用、自由財産拡張などで扱いが変わります。
Q. 99万円は現金と預金の合計ですか?
法テラスが自由財産として説明している99万円は『現金』です。預貯金と同じ扱いと決めつけないでください。
Q. 個人再生では貯金を取られますか?
原則として財産を保有したまま進める手続ですが、貯金を含む財産の清算価値が最低返済額へ影響することがあります。
Q. 破産前に生活費として貯金を使ってはいけませんか?
通常の生活に必要な支出と、財産隠しや不自然な資金移動は別です。大きな支出や資金移動を予定している場合は、事前に専門家へ確認してください。
Q. 家族名義の預金も処分されますか?
家族固有の財産が本人の破産だけで当然に処分されるわけではありません。ただし、実質的に本人のお金を家族名義で管理している場合などは説明が必要になることがあります。
Q. 給料日前に預金が少なければ有利ですか?
申立てのタイミングだけを操作して財産を少なく見せる考え方は避けてください。収入や支出、預金履歴を含めた全体が確認されます。
Q. 20万円以上の預金があると必ず管財事件ですか?
裁判所の運用によって異なります。東京・札幌では20万円以上の換価対象資産がある場合を管財事件の例として案内していますが、他の事情も含めて裁判所が判断します。
同時廃止と管財事件の違いを理解すると、20万円基準の意味が見えやすい
自己破産では、大きく分けて、破産管財人を選任せず開始と同時に破産手続を終える『同時廃止』と、破産管財人を選任して財産・免責事情を調査する『管財事件』があります。
20万円という数字は、この振分けや換価対象財産の判断で出てくることが多い数字です。つまり、『20万円までなら自由に持っていてよい』という生活費の上限ではなく、管財人による調査や換価が必要かを考える実務上の目安として理解した方が正確です。
しかも、管財事件になる理由は財産額だけではありません。札幌地裁の公表資料でも、資産調査が必要な場合、法人代表者や個人事業者の場合、免責調査が相当な場合などが管財事件の例に挙げられています。
したがって、『預金が19万円だから必ず同時廃止』『20万円を超えたから必ず管財』という判断はできません。
20万円は財産全部の合計なのか、財産ごとなのか
ここもネット情報で混乱しやすいところです。裁判所によっては、預貯金、保険解約返戻金、未払報酬などについて一定額以上の換価対象資産がある場合を管財事件の例として案内しています。
一方で、別の裁判所では現金・普通預貯金の合計、個別財産の価額、財産総額など、異なる切り口で基準を設けている例があります。
そのため、『財産全部を合計して20万円』『1口座ごとに20万円』『1種類ごとに20万円』と全国共通のルールとして覚えないでください。
正しい確認方法は、申立先の地方裁判所が公表している最新の破産申立書式・FAQ・運用基準を確認することです。専門家へ依頼する場合は、その地域の実務に沿って財産目録を作ることになります。
自己破産で99万円の現金があれば必ず同時廃止になるわけではない
99万円以下の現金が自由財産であることと、同時廃止か管財事件かは別の論点です。
例えば、札幌地裁は50万円以上の現金がある場合を管財事件として扱う例に挙げています。つまり、仮に99万円以下の現金が自由財産として手元に残り得るとしても、一定額の現金があることで管財事件として調査が必要になる可能性はあります。
『残せる財産』と『管財人を付けるかどうかの振分け』を同じものとして考えないことが重要です。
自由財産拡張は何のためにある?
自己破産は生活再建のための制度でもあります。法律上当然に自由財産となるものだけでは、破産後の生活維持が難しいケースがあります。
そこで、破産者の生活状況、財産の種類・額、今後の収入見込みなどを考慮して、裁判所が自由財産の範囲を拡張する制度があります。
例えば、仕事や療養のために必要性が高い財産、生活再建に不可欠な事情などが問題になることがあります。ただし、何が認められるかは個別判断です。
『20万円を超えたら絶対処分』『99万円を超えたら絶対残せない』のような一律の結論を避けるべき理由の一つが、この自由財産拡張です。
個人再生の清算価値を具体例で考える
個人再生では、貯金をその場で没収されるわけではありません。しかし、財産が多ければ最低返済額へ影響する可能性があります。
例えば、住宅ローンを除く借金が400万円あり、法定の最低弁済額を基準に考えると100万円が一つの目安になるケースを考えます。
ここで、預金120万円、保険解約返戻金40万円、車の清算価値20万円など、清算価値として評価される財産が合計180万円あると仮定します。この場合、単純に『借金400万円だから100万円返せばよい』とはならず、清算価値との比較が必要になります。
実際には各財産の評価方法、自由財産として控除される部分、住宅・退職金などの扱いを裁判所の運用に沿って計算します。そのため、自分でネットの計算式だけを使って返済額を確定しないでください。
重要なのは、個人再生では財産を持てる代わりに、その財産価値以上を債権者へ返済する必要が生じることがあるという考え方です。
任意整理で貯金を残せても、銀行との取引には注意する
任意整理自体には財産を換価する制度はありません。しかし、借入れのある銀行を任意整理の対象にする場合、その銀行の口座が一時的に利用しにくくなったり、預金と借入れの相殺が問題になったりすることがあります。
給与振込、家賃、公共料金など生活口座として使っている銀行に借入れがある場合は、相談時に必ず伝えてください。
これは『貯金を何万円残せるか』とは別の問題ですが、実生活では非常に重要です。口座凍結の記事でも、生活口座・引落口座を整理する考え方を解説しています。
特定調停では貯金はどう扱われる?
特定調停は簡易裁判所が間に入り、返済条件を調整する手続です。自己破産のように財産を清算・換価する手続ではありません。
そのため、20万円・99万円という破産の財産基準がそのまま特定調停に適用されるわけではありません。
ただし、返済可能な計画を作るために収入・支出・資産状況が重要になる点は同じです。貯金があるかどうかだけでなく、毎月継続して返済できるかを見ます。
特定調停の詳しい仕組みは特定調停とは?費用・流れ・メリット・デメリットで整理しています。
申立て直前に大きな買い物をするとどうなる?
自己破産を考え始めた後に、貯金を減らす目的で高額商品を買う、親族へ贈与する、特定の債権者だけへまとめて返済するといった行為は避けるべきです。
通常の生活費や必要な支出まで禁止されるわけではありませんが、『なぜこの時期にこの支出をしたのか』を説明できることが重要です。
高額な支出予定があるなら、購入してから報告するのではなく、先に専門家へ確認してください。
相談前に作る『財産一覧』テンプレート
債務整理を相談するときは、次のように一枚で一覧にすると話が早くなります。
| 財産 | 確認する内容 |
|---|---|
| 現金 | 自宅・財布など手元にある合計 |
| 預貯金 | 金融機関名、口座、現在残高、直近の大きな入出金 |
| 保険 | 保険会社、契約者、解約返戻金 |
| 車 | 車種、年式、ローン残高、所有者、概算時価 |
| 不動産 | 名義、住宅ローン残高、固定資産評価、査定額 |
| 投資 | 株、投資信託、NISA、暗号資産などの時価 |
| 退職金 | 現在退職した場合の見込額 |
| その他 | 売掛金、貸付金、積立金、高価品など |
正確な金額が分からないものは、『不明』と書いて相談して構いません。分からないから記載しない、ではなく、存在そのものを伝えることが重要です。
20万円・99万円で迷ったときの最終チェック
- 20万円を『債務整理全体の貯金上限』だと思っていないか
- 99万円を『銀行預金まで含めて必ず残せる金額』だと思っていないか
- 任意整理と自己破産の財産ルールを混同していないか
- 個人再生の清算価値を見落としていないか
- 預金以外の保険・車・退職金・投資資産を忘れていないか
- 申立先裁判所の最新運用を確認したか
- 財産を動かす前に相談したか
この7点を確認するだけでも、ネット上の『20万円なら大丈夫』『99万円なら大丈夫』という単純な情報に振り回されにくくなります。
公式情報を確認するときのポイント
この記事で参照した主な公的情報は次のとおりです。
裁判所の運用は変更されることがあります。申立てを検討している場合は、記事だけで最終判断せず、申立先裁判所や専門家の最新案内を確認してください。
まとめ|『20万円・99万円』だけで手続を決めない
債務整理と貯金について最も重要なのは、数字の意味を混同しないことです。
- 任意整理は財産換価の手続ではなく、20万円・99万円基準は直接当てはまらない
- 個人再生は財産を保有できるが、清算価値によって最低返済額が上がることがある
- 自己破産では99万円以下の『現金』は自由財産とされる
- 預貯金は現金と同じ99万円ルールで一律判断しない
- 20万円は全国一律の『残せる上限』ではなく、裁判所実務上の管財・換価判断で登場する数字
- 東京と札幌でも現金に関する管財事件の例示額が異なる
- 申立前に財産を隠す・家族へ移す・不自然に現金化する行為は避ける
『できるだけ貯金を残したい』という気持ちは自然です。ただ、貯金を残せるかだけで任意整理・個人再生・自己破産を選ぶと、返済を続けられなかったり、家や車など本当に守りたいものへの影響を見落としたりします。
貯金を残せる方法だけでなく、返済を続けられる方法か確認する
貯金・保険・車・住宅などの財産がある場合は、任意整理・個人再生・自己破産で扱いが変わります。自分だけで財産を動かす前に、現在の状態のまま相談して確認する方が安全です。
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